過剰に暴力的な描写がある映画は苦手だ。暴力を手軽なアイキャッチに利用している気がして、この描写本当に必要なの?と気持ちが冷める。映画を刺激的に仕上げるためのスパイスでしょ、とうがった見方をしてしまう。
でもこの映画に限っては違った。
演出の巧さなのか、それとも作り手の実体験である事がとことん生かされているのか、暴力シーンから目が離せない。目をそらしてはいけないと感じる。まさに息もできない。
暴力描写は激しいが、それ以上に悲しく切なく、忘れられない映画となった。
あらすじ・キャスト・スタッフ
2008年制作
あらすじ
キム・サンフンは幼少期のある出来事により、すべてのものを愚弄する破滅型の男として育った。彼は友人マンシクと始めた暴力的な取り立て屋として日々を送る。そんなサンフンがある日、女子高生のハン・ヨニと出会い、口論をきっかけにお互い不思議な感情を抱き育むようになっていく。ふたりは唾棄すべき父を持ち、幼くして母を失っている似た者同士だった。サンフンはヨニに酒を奢り、ヨニもサンフンの姉や甥のヒョンインと友情を結んだ。次第にヨニによって秘めていた優しさを引き出されていくサンフンだったが、ヨニの弟であるヨンジェが弟分になったことで、その運命は大きく歪まされていくのだった。(Wikipediaより)
キャスト
- ヤン・イクチュン:キム・サンフン「ああ、荒野」「大丈夫、愛だ」
- キム・コッピ:ハン・ヨニ
- イ・ファン:ヨニの弟ヨンジェ
- チョン・マンシク:マンシク
製作・監督・脚本・編集・主演ヤン・イクチュン
心の奥底では愛を求めるサンフン
暴力が暴力を生む負の連鎖の中で生まれ育ち、その輪から抜け出せずにもがきながら生きる主人公のチンピラ、サンフンと、似た境遇の女子高生ヨニが偶然にも出会い、二人は徐々にお互いを理解するようになってゆく…。
愛でもなく恋でもなく、またそれが何かは重要ではなく、二人は魂が呼応するかのように惹かれあってゆく。その危なっかしくも微笑ましい様子に、決してあり得ないハッピーエンドを一瞬期待してしまう。
ヤン・イクチュンの暴力を躊躇わない攻撃的な男でありながら、心の奥底では愛情に切実に求めている弱さを見せる主人公の演技が素晴らしかった。監督や脚本、主演までも務め、私財を投げ打ちこの映画を制作した彼の思いが形になってたのだと思う。
その彼に呼応するかのように、他の登場人物のそれぞれの心情が物語が進むと共に変化していく絶妙な演技も必見。
過激なバイオレンスが多く、ラストも決してハッピーエンドとは言えず、冷静に考えると誰にでもお薦めできる映画ではないと思う。それでも「良かった!是非観てほしい!」と会う人会う人に思わず言ってしまう。そんな映画だったなぁ。
ヒロインのキム・コッピの際立った存在感!
彼女のフィルモグラフィを見ると、2001年から2008年までなんと40本以上の映画に出演している。まさに映画の申し子。いつかドラマにも登場する日が来るか?
対してヤン・イクチョンはこの作品以降、なぜか日本の作品に積極的に出ていて、宮藤官九郎の「中学生円山」や「あゝ、荒野」など記憶に新しい。「あゝ、荒野」での吃音の在日韓国人役は良かった!
「大丈夫、愛だ」への出演は意外だったけれど、役者として活躍している。
受賞歴
- ロッテルダム国際映画祭 タイガー・アワード(グランプリ)
- ラス・パルマス国際映画祭 主演男優賞、主演女優賞
- ドーヴィル・アジア映画祭 ゴールデン・ロータス賞(グランプリ)、国際批評家賞
- フリブール国際映画祭 エクスチェンジ賞
- ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 カトリック映画賞、観客賞
- シンガポール国際映画祭 最優秀演技賞(男優賞)
- バルセロナ・アジア映画祭 ゴールデン・ドリアン賞(グランプリ)
- ニューヨーク・アジア映画祭 新人監督賞
- 台北映画祭 スペシャル・メンション賞
- カルロヴィヴァリ国際映画祭 NETPAC賞(アジア映画賞)
- ファンタジア国際映画祭 最優秀映画賞、最優秀男優賞
- テキサス=オースティン・ファンタスティック映画祭 観客特別賞、
ニュー・ウェイヴ部門最優秀監督賞 - ウラジオストク国際映画祭 グランプリ、最優秀女優賞
- アジア太平洋映画賞 男優特別賞
- 韓国映画評論家協会 国際批評家連盟韓国本部賞
- 韓国・大鐘賞 新人女優賞
- 韓国・青龍映画賞 新人男優賞、新人女優賞
- 東京フィルメックス 最優秀作品賞(グランプリ)、観客賞
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